ナントモハヤ

明日のぼくを殺せ。昨日のきみを救うために。

麺を食う2 新宿ゴールデン街 凪

 新宿ゴールデン街にやって参りました。歌舞伎町より三丁目にかかるあたり、伊勢丹の横から坂を下りるように新宿通を横断すれば、実にいかがわしそうな街並みのそこに足を踏み入れることになるわけです。正直この時代だとて夜はそうそう来る気になれない場所です。修学旅行中のお上り男子高校生のような勇気を、ぼくらは永遠に失ってしまったんだ。

 とはいえ今回は平日の昼下がり。人通りすら少なく、サブカル臭すらしてくる寂れたようで夜はちゃんといやらしく営業しているんだろうスナック街の二階にある凪というラーメン屋でございます。ラーメンマップで赤くなっているのできっとそれなりに特徴があるんだろうと思う次第にて。しかし、入り口に立って見ても、この立て付けの悪そうなドアが入り口なのか皆目見当がつかない。昼時ならば列もできていそうなものだが、そういう感じでもない。矢印の看板は列の方向をさししめしているのだが、こう、ドアに客を招き入れる姿勢がみえないと、この矢印も「ハヤクニゲロ」であるか、もしくは「おまえをラーメンにしておいしくいただかれます」の恐れを醸し出されてクリームを塗り込む白昼夢を見た。

 扉を開けると階段がそびえ立っている。小学生の頃、友達の家に行ってつま先しか乗せるところのない階段を上ったことを思い出した。ランドセルが天井にぶつかってひっくり返った。この年になるともはやランドセルも背負っていないので平気です。登り切ると券売機があるので、よくわからんが「特製煮干ラーメン」を頼む、おそらく900円。先客は二名で店内もやたらと狭い。出入の度に患わされそうな入り口近くは避けて奥に。厨房は人が一人しか動けないような狭さの中で二人のスタッフがベラベラ喋りながら動いている。喋る内容がわりと店の内情ダダ漏れな感じで聞いているこっちとしては楽しめるんだが、いいのかそれは。空いている席に荷物を載せると「後ろにおいてくれ」と言われる。席の誘導もせずに客に注文とな! と激昂するぼくではないし、なによりここのスタッフちょっと裏道にいくとすごそうな凄みがあるのでヘコヘコと言うことを聞いて段ボールの上に荷物を置く。おそらく在庫であろうと思う。しかし客が少ないから入れるが、こんなの客がいっぱいの時の出入りどうするんだろうと要らん心配をする。案内の感じと席数が10もない事を見ると、回転は速いが、列もかなりできそうなので、いちいちかき分けて出入りするのは相当に難儀なことであるとおもわれる。
 店内はなんかいろいろなものが雑然とある。明治神宮の商売繁盛の札とか。あとはなんかちょっと自己啓発っぽいことばみたいなやつとか、あ、これどっかでみたことあるな? ああ、じゃんがらだこれ。と得心がいく。渋谷店の案内図らしきものもいかにもそれっぽい雰囲気だ。行ったこと無い人には「世界の山ちゃん幻の手羽先」の看板をはじめて見た時の「ン?」な感じを想像してもらえば良いかと思う。一歩間違えればスピリチュアルなメッセージ。具材の説明とかから、自分らはこうして誠実にモノを作っておりますオッスオッス! みたいな、ぼくがここで働いたら一時間で失禁して舌を噛んで死ぬ感じの体育会系を社会に落とし込んだ感じのなんだ、空気? 向上心の高い愚痴を交わしあうスタッフの会話と一緒に楽しむ。こういう飲食店の方向性を決めるような意志と力を持つコンサル的な人みたいなのがいるのかなあ、ラーメン界を牛耳ってたりするのかなあとか想像するうちにモノが出てくる。


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 ドーン


 ものすごい煮干の香りがする。つけ麺の付け汁だってこんなに濃くないだろうと思わせる醤油色のスープ。一口飲むと確かにうまい、しかし、一瞬で口の中が海水浴帰りになる塩辛さだ。金属ナトリウムが身体の中で錬成出来そうなくらい。今身体を燃焼させたら黄色の炎が出るに違いない。

 箸は年季の入った竹箸で要は洗って再利用してある。こういうのが苦手な人は(もう場所で既にフィルタリングされているとは思うが)注意した方がいいかもしれない。ぼくはわりと苦手なんだなあと気付かされる一瞬。食べ始めたら気にもならんのだがね。松屋の箸が塗り箸になりはじめたときも「えっ」って思った。良く外食できるなおまえ。はい。

 麺を啜るとおいしい。最近つけめんばかりだったのでラーメンを食べて居るなあという気持ちになれる。ただ、良きにつけ悪きにつけ、一口啜るごとに海を、それもカリブとか沖縄とかじゃなく日本の海水浴場の……そう、伊豆下田の海を感じる。葱と一緒に食べると野菜がありがたく感じるレベルだ。もちろん卵にもよくあう。チャーシューもまたいい、厚くパサパサでないが、このスープの濃さに合っている。海苔はあんまりたいしたことないというか、この煮干の香りとかに負けているというかなんか相性がわるくなっているような気がする。
 真骨頂は写真の右の方に見えている平麺がいい。柔らかい。パスタかと思うくらいだ。麺と言うよりも上質のワンタンの皮だけを具にしたてあげたかのような贅沢な要素だ。ちょっとだけかとおもいきや、わりと量があるので、普通の麺と交互に食べて、このスープでも飽きない。いや、さすがにちょっとつらくて(塩辛くて)スープを飲み干すには至らなかった。身体にわるそうなことが悦びになるような状態だったら――やっぱり一杯やってからならすごくおいしくいけると思うんだけど、それにしては量があるかもですね。

 
 高血圧と、女子には、薦めません。